本研究成果のポイント
- 1回の局所注射で長期間効くDDS製剤の開発:ポリ乳酸(PLA)(注1)を用いたマイクロ粒子により、最大14日間にわたる薬物の持続的な放出を実現。
- 破骨細胞(注2)を抑え、骨芽細胞(注2)を活性化する:DEL-1を上昇させることで、歯槽骨の破壊抑制と骨再生を同時に達成可能。
- 失われた骨の若返り:歯周病による骨減少を防ぐだけでなく、加齢により失われた歯槽骨の再生にも成功。
- 薬剤耐性菌リスクを排除した、患者への負担が極めて少ない「ポケット注入型の次世代歯周病治療薬」の実現に向けた重要な一歩となる。
本学大学院医歯保健学研究科高度口腔機能教育研究センター/研究統括機構の前川知樹研究教授、本学大学院医歯学総合研究科博士課程のMeircurius D.C. Surboyoさん(大学院生)、本学医歯保健学研究科口腔保健学分野の吉羽永子教授、歯周診断・再建学分野の多部田康一教授、微生物感染症学分野の寺尾豊教授は、株式会社SENTAN Pharma(本社・福岡市)と共同開発研究を行い、抗炎症・骨再生促進作用を持つマクロライド系薬物「エリスロマイシン(ERM)」を、生体適合性高分子で作られた微小なマイクロ粒子に封入し、歯肉に1回局所投与するだけで持続的に薬物を放出して歯周病による歯槽骨(歯を支える骨)の吸収を抑制し、さらに骨再生を促進する画期的な治療製剤(開発コード:SP0073-4)の開発に成功しました。本研究グループは、前回の研究*1において、生体内タンパク質DEL-1(注3)が幹細胞の老化を防ぎ、加齢に伴う骨消失を抑制する強力な抗老化(セノリティック)効果を持つことを解明していました。今回の成果は、その革新的なバイオロジーの知見を、実際の医療現場で患者に届けるための具体的な治療製剤技術(DDS)(注4)として世界に先駆けて具現化したものです。本成果は、薬剤耐性菌のリスクを排除した「痛みの少ない、ポケット注入型の次世代歯周病治療薬」の実用化を加速させるだけでなく、将来的に整形外科領域における局所的な骨粗鬆症や骨折、関節炎など、慢性炎症と老化が絡み合う広範な加齢性骨疾患に対するピンポイント骨再生療法の開発に大きく貢献することが期待されます。
本研究成果は、2026年5月17日に国際的な製剤学・医療材料専門誌『International Journal of Pharmaceutics』に掲載され、5月24日にオンライン公開されました。
https://www.niigata-u.ac.jp/news/2026/1131802/
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0378517326004436
【用語解説】
(注1)ポリ乳酸(PLA)
生体内で安全に水と二酸化炭素に分解・吸収される生分解性の高分子材料です。医療用素材として広く認可・使用されており、本研究では、エリスロマイシンを包み込んで持続的に放出するためのマイクロ粒子の材料として用いられています。
(注2)破骨(はこつ)細胞と骨芽(こつが)細胞
骨の代謝(生まれ変わり)を担う2種類の細胞です。破骨細胞は古くなった骨を溶かして吸収し、骨芽細胞は新しい骨を作る役割を持ちます。歯周病などで炎症が起きると、破骨細胞の働きが過剰になり歯槽骨(歯を支える骨)が減少してしまうため、骨の再生にはこれら2つの細胞の働きのバランスをコントロールすることが重要になります。
(注3)DEL-1タンパク質
私たちの体内に元々存在し、過剰な炎症を抑えたり、組織の修復を促したりする重要なタンパク質です。歯周組織においては、破骨細胞による骨の吸収を抑える一方で、骨芽細胞の働きを活性化させて新しい骨を作る司令を出します。さらに、老化細胞を除去する機能(セノリティック効果)も持ち合わせており、加齢に伴う骨の減少を防ぐ働きもあります。
(注4)DDS(ドラッグデリバリーシステム)および徐放(じょほう)性
DDSとは、薬物を体内の必要な場所に、適切な量を、狙った期間にわたって届ける技術のことです。本研究では、薬物をマイクロ粒子に封入することで、歯周ポケットなどの局所で長期間(約14日間)にわたって薬を持続的に放出する「徐放性」を実現しています。これにより、従来の抗菌薬治療で課題となっていた長期間の投薬や全身への副作用リスク、薬剤耐性菌の発生リスクを減らすことができます。
